「今日が基準とかマジかよ……。こんな事ならたらふく肉食っておけば良かった……」
太杉は項垂れながら呟く。人前で結果発表する恥ずかしさや嫌悪感よりも、食への後悔が先に立った。
「皆様ご理解頂けましたか?」
成金の問い掛けに皆頷いた。
「では、体重測定に移る前に……私からささやかなブレゼントを用意しました。あちらです!」
成金が手を差し向けると、その先にあった分厚いカーテンが開く。そしてそこに用意されていたのは――豪華な料理の数々だった。
「好きなだけ食べて下さい!」
これには太杉だけでなく全員が歓喜の声を上げた。
「うわっ成金さんマジ最高っすぅぅぅ!! 分かってるぅぅぅ!!」
太杉は一際大きい声で喜んだ。
――満足いくまで料理を堪能した参加者達は、その後検査と体重測定を行い、最後に今の姿と意気込みを動画に収めて解散となった。
「それでは皆様、一ヶ月後会えるのを楽しみにしています。一億円目指して精一杯頑張って下さい! 健闘をお祈りします」
自宅に帰ってきた太杉は、真っ先に部屋中に散乱しているスナック菓子を処分した。
「やってやる。絶対に億万長者になってやる!」
ネットでダイエット法を片っ端から検索し、それらを実行に移すことに決めた。
大好きなマヨネーズやカップラーメンを封印し、間食も止める。食べる物は今まで邪険に扱っていた母親の料理。毎日決まった時間に部屋の前に置かれており、バランスの取れた健康的な食事である。
これまで太杉にとっては物足りなく、気に食わない物でしか無かった母の料理。放置もしたし、ぶち撒けもした。
まさかそれを有難く頂くことになるとは、太杉も思ってもみなかった。
夕飯までまだ時間がある。運動がてら部屋を片付ける事にした。改めて見てみると、よくこんな汚い部屋で過ごしていたなと自分自身に感心する太杉であった。
――ニ時間後
「ハァハァ。疲れたんご。膝も腰も痛いし、腹減った」
普段ならここでコーラを一気飲みし、ポテチを一袋平らげてからの睡眠が最高だが、グッと我慢した。
それから暫くして夕飯の時間になり、食事を置いた合図のノックがされた。
母親が遠退く足音を確認すると直ぐさま料理を部屋に運び込み、勢い良く頬張った。
「うめぇうめぇ。何これマジうめぇ」
空腹での食事がこんなにも美味しく感じるということを初めて知った太杉であった。
食事が終わると、メモを付けて廊下に食器を戻した。そのメモには……『ダイエットしてるので炭水化物は要りません』と書いた。
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