翌日から本格的にダイエットを開始した。
普通にやっていては一ヶ月で六十五キロ以上の減量は不可能。最悪途中から断食する覚悟でいる。
今は出来る事を全てやってみるしかないと気合を入れ直した太杉であった。
午前中はプールへ行き、午後はウォーキング。引きこもりとは思えない行動力である。
今回の太杉は三日坊主ではなかった。食事量のコントロールとトレーニングを継続し、物凄い勢いで体重は減っていった。
毎日体重計に乗るのが楽しくてしょうがなかった。
「僕ちんマジ凄ぇぇぇ!! ダイエットの本とか出せるんじゃない? 一億円に加えて、印税生活も夢じゃないっしょ」
しかし、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。半月を経過し、体重が二桁代に突入した頃から減らなくなってきたのだ。
「クソが! 何でだよっ!! こんなに頑張っているのに!!」
苛つきと焦りが頂点に達し、体重計を床に叩き付けて破壊してしまった。
「もう日が無い。あと十五日……水だけで過ごしてやる。やるしか無いやるしか無いやるしか無い」
部屋の前に『当分食事は不要です』と貼り紙をしてまた引き篭もる。但し今回のは痩せる為の引き篭もりだ。太杉にとって、これまでの『引きこもり』とは意味が全く違う。
暖房をマックスの温度で強風設定し、サウナスーツを着込む。只でさえ汗かきの太杉には地獄のような環境だ。辛さを紛らわせる為、大好きな魔法少女のアニメを一話からぶっ通しで見続けた。
こんな暮らしを最終日まで継続した。
既に人間が耐えられるレベルを超越しているが、リミッターの外れた太杉は耐えてみせた。もはや空腹感も無く、暑さも全く感じない。
サウナスーツを脱ぎ捨て鏡に映した太杉の体は皮膚が余り、垂れ下がってはいるものの一ヶ月前とは別人のように痩せていた。達成感は計り知れない程だ。
最後に、身体を清める為シャワーを浴びた。たまりに溜まった垢を落としていく。
「ああ、気持ちいい……。僕は完全に生まれ変わったんだ」
部屋に戻ると――太杉のパソコンに一通のメールが届いていた。「誰だこれ?」と驚く事は無い。イベント運営からの招集メールだ。
『明日の朝十時に迎えの車が行くので、それでドームへ向かうように』との内容だった。
明日が待ちきれない……そんな気持ちになったのは大人になってからは初めてだった。
――翌日
結局一睡もせず朝を迎えた。部屋は綺麗に片付き、ゴミ一つ落ちていない。つい両親への感謝の手紙まで書いてしまった。時間になると手紙を机の上に置き、迎えの車へと向かった。
だがドームへ向かう途中、太杉は重大な事に気付いてしまった。それは……体重計を壊してから体重を測っていないことだ。
「僕は何て馬鹿なんだ!! 減量が足りていなければ元も子もない」
そう口にするものの、自信はあった。それに万が一達成出来なかったとしても、人生を変えられるという確信があった。それだけの事を一ヶ月でやり遂げたのだ。
そして――ドームに到着し、そこにはあの成金が居た。
「お待ちしてました。頑張りましたね。早速ではありますが、先ずこのクジを引いて下さい。これで発表順を決めますので」
太杉は箱に手を突っ込み一枚の紙を掴んだ。紙を開くと『2』と書かれていた。
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