2019年7月26日金曜日

隣人当選①


 俺は山田トオル。入社3年目のサラリーマン。職場での営業成績はビリ。いつも上司から怒鳴られており、皆からお荷物扱いをされている。



 まあやる気もない。


 そんな俺だが、彼女が出来たときのためにと見栄を張り、ちょっといいマンションに住み始めた。しかし一向に彼女はできず、今や生活費を圧迫するだけのカネ食いマンションと化していた。

 寝て起きてを繰り返すだけのマンションへ、いつもの様に酔い潰れ朝方帰ってきた。

 マンションの入り口に引っ越し屋のトラックが止まっていたが、そんなことは気にせずに自分の部屋へ向かう。すると、引っ越し先は自分の部屋の隣だった。


「隣かよ、なんか面倒くせー」


 愚痴をこぼしながら、通路においてある段ボールを千鳥足でよける。

 隣の部屋の前を横切るときにドアの隙間から中が見えたが、隣人の姿は見当たらなかった。

 まあ関わることもないし、どうでもいいかと思いながら自分の部屋へと入った。


「ふぅ、今日も飲みすぎた」


 部屋に入るとすぐにタバコに火をつけ、ソファーに深く腰を掛けた。

 帰宅してから直ぐの一服が俺の日課であり、体全体に染み渡るこの感じがたまらない。

 ひとときの幸せを感じながら寛いでいると、チャイムが部屋に響き渡った。


「はぁ? 何だよこんな朝早くに!」


 自分の幸せな時間を邪魔され、不機嫌のままインターホンを取った。


「はい」


「朝早くすみません。隣に引っ越してきたので挨拶に来ました」


 インターホンに近づき過ぎているのか、顔は見えなかったが男性のようだ。

 ちっ! 男かよと思いながら、無愛想に返事を返した。


「はい、今でますよ」


 インターホンを切り入り口に向かう。


 はぁ、めんどくさ……。


 ガチャリとゆっくりドアを開け、隣人の顔を確認した。


 するとそこには…………俺がいた。



 ……は?



 俺は混乱し一度ドアを閉めた。


 い、いま俺がいなかったか?    いや、そんな訳ない。見間違いだろ。そんな自問自答を繰り返しつつ、一旦気持ちを落ち着け改めてドアの覗き穴からそっと覗いてみる。するとやはり俺がいた。

 身体中から嫌な汗が吹き出てきた。


 落ち着け、落ち着け俺。冷静になれ! とそう自分に言い聞かし、深呼吸をする。


「ふぅー」


 少しだけ落ち着いてきた。でもどうする?  警察呼ぶか?  いや、そんなことしたら余計にめんどくさくなりそうだ。どうする?

 考えても答えはでない。

 くそ、もうこいつに聞くしかないだろ!    と、俺は半分ヤケになり、勢いよくドアを開けてそこにいる俺を睨み付けた。

 そして……そこにいる俺と目が合った瞬間、頭のなかに声が響いた。


『おめでとうございます!  隣人に[未来から来た自分]が当選しました。有効期限は3日間です。3日経過後のお手続きについては追ってご案内いたします』


 何だ……これ?


 俺が混乱していると、もう一人の俺が話しだした。


「俺は未来のお前だ。俺の言う通りにすればこの3日間でお前の人生、いや俺の人生は変わる」


「お、お前何か知ってるのか?」


「俺が知ってるのは、俺がお前で、お前が俺だということだ。そして、俺が未来から来た……これが何を意味するか分かるか?」


 未来……。


「もしかして、お前はこれから起こることを知っているということか!?    もしそうなら、お前は宝くじの当選番号も分かるってことだよな!」


「さすが俺、察しが早い。その通りだ。お前が毎週買っているナンバー7、その次回当選番号を俺は知っている」


 ナンバー7とは、1から100までの数字から7つ選び、その選んだ数字7つが当選数字と全て一致すれば1等7億円が当たるという宝くじだ。




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