2019年7月31日水曜日

ミッションインポッシブル④


「ありがとうございます。あなたには二番目に結果発表を行っていただきます。良かったですね。前の人の様子が見れますし、その間、追い込みで減量にも励めますよ」


 満面の笑顔でそう話す成金だが、前の奴の様子なんか見ても全く嬉しくないと思う太杉であった。

 控え室は一人に一室用意されており、そこには様々なトレーニング器具やダイエットグッズが備え付けられていた。

 注射器やチェーンソーまで置いてあるのには首を傾げたが、とにかく結果発表までに少しでも減量するため、太杉はウォーキングマシーンで汗を流す事にした。


――数十分後、どこからか「うおぉぉぉぉ!!」と大勢の声が響いてきた。

 イベントの結果発表に集まった大勢の観客の声だ。そこに運営からの案内が続く。


『大変お待たせ致しました! これから皆様お待ち兼ね、結果発表を行います! 今日のため頑張り抜いた十五名の挑戦者達はどのような姿と結果を見せるのか……。先ずは減量開始前の姿を映した意気込み映像をご覧下さい』


 控え室に設置されたスクリーンへはアリーナ中央に立つ司会者の姿が映し出されていた。

 その背後に映る観客席は満杯。盛り上がりに熱気を帯びている。


『皆様、準備は宜しいですか? それでは一人目です! イッツショータイム!!』


 減量前の映像を流し終えると、司会者がゴンドラで宙に上がっていき、床下から電子ゲージの付いた大きな体重計とバニーガールが現れた。電子ゲージは目隠しされている。盛り上げる為の演出だろう。

 そして、装飾されたアリーナ入り口から一人目の男が歩いてきた。見た目はぽっちゃり体型。


「あれは駄目だな」

 太杉は男を見てそう呟いた。


 男は司会者の進行に合わせて体重計に乗った。

 無駄に激しいドラムロールが鳴り響き続ける。


『それでは結果発表です!』


 バニーガールが百の桁の目隠しに手を掛け、定番のジャカジャンという音と同時に剥がした。


 百の桁は『0』。


『おーっと無事百キロは切ったようだぁぁぁ!!』


 司会者が盛り上げる。


『続いて十の桁、行ってみましょう!!』


 十の桁は『8』。


『おお!! これは……ざーんねーーーーん!! この時点で失敗確定だぁぁぁ!!』


 男は失敗した。その姿を見て少し焦る太杉。
既に汗すら一滴も出ない体となってしまっていた太杉は、極太の注射器を手にした。


「念には念をいれてやる」


 適当に腕の血管に針を刺し込み、血を抜き始めた。


「痛ってぇぇぇ!! 痛すぎる!!」


 腕が一気に内出血し青紫に変色していく。注射なんて子供の頃以来で、刺す場所も合っているか分からない。しかしこれしか方法が無かった。

 注射器が血で一杯になると、それを捨ててもう一回抜いていく。


「ハァハァ……」


 すると、また会場から大きな声が響いてきた。太杉は血を抜きながらもスクリーンを見た。


『それでは減量に失敗した貴方へ贈る、お楽しみ企画を開始しまーす!!』




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