2019年9月4日水曜日

ヒトインフルエンザ②


 強く反発する市民は殺害。武力行使をエスカレートさせながら感染の抑止を強めていった。

 しかし……感染拡大は留まることを知らない。それに伴い治安の悪化も進んだ。

 この頃には、鼻血を流した死体が日本の至る所に転がっていた。日本の人口は半分以下にまで減少し、今この瞬間もどこかで死者が出ている。

 現在、日本で唯一の安全圏……それは国会議事堂の敷地内のみとなっていた。そこから一般市民は排除され、武装した隊員が取り囲んでいる。


「もう限界だ。ここには天皇を残し、我々はアメリカへ向かうぞ。天皇にはここから国内全土へメッセージを発信し続けてもらう。日本の象徴の最後の役目だ」

「総理、オスプレイの準備が整いました」

「よし、行くぞ」


 総理を含めた主要な政治家達と一部の権力者は、我先にとオスプレイに乗り込んだ。

 飛び立ったオスプレイの中で、アメリカのポーカー大統領へと連絡する宇辺総理。


『ごきげんよう、ミスターウベ。私だ』

「ポーカー大統領。我々は貴国へ向かっています。どうか協力をお願いしたい」

『はぁ。全くの期待外れだよ。ユーのゴルフ同様、ユーはアメリカにとっても私にとってもOBだ。私の楽しみを阻害する邪魔者でしかない!    ジャパンと共に消えてくれ。モンキー』


 そしてそのまま通話は切られた。


「もしもし! もしもし! く……クソォォォ!!」


 総理は受話器を叩き付けた。

 その時――何か飛行機が近づいてくるような音が機内に響く。


「何だこの音は!?」

「アメリカの助けか?」


 皆、窓から外を覗く。その先に見えたのは……巨大なミサイルだった。


「「「えっ?」」」


 それを認識したと同時に着弾。オスプレイは激しい爆発音とともに、木っ端微塵に吹き飛んだ。


『オスプレイ日本機への着弾確認しました』

「Good。ジャパンは本日を持って幕を閉じる。島国で助かったよ。こんな事で我が国の発展を阻害されては困るからな。ハッハッハ」



――――


『日本国民の皆さん。このような事態となってしまい本当に申し訳ありません。私は最後まで皆さんと一緒にこの日本に留まります。

 私はこの日本が大好きでした。優しい心を持ち、他人の事を想える日本人が大好きでした。
私はこの日本に生まれ、この土地で育ち、皆さんと共に過ごせた八十五年間に後悔はありません。

 無理を承知で言います。最期はみんなで笑いましょう。笑顔で最期の瞬間を迎えましょう。
これが私から皆さんへの……』


 その瞬間――日本全土へアメリカから放たれたミサイルや戦闘機と空母からの砲撃が雨のように降り注いだ。次々に爆炎で埋め尽くされていく。逃げる場所など無い程に。


 そして……全てが焼き払われ日本国民は全滅。日本は荒野が広がる只の無人島と化した。


「ミッションコンプリート。帰還します」


 日本上空を旋回していた戦闘機は次々に空母へ戻っていった。




――――数週間後のニューヨーク

 世界を震撼させたニュースも、時間の経過と共に話題に出されなくなってきていた。

 今の所日本以外での感染者は確認されておらず、終息したという見方も出ていた。

 そんな中、とあるカフェで若者二人が日本について語り合っていた。 


「俺、日本に友達が居たんだ。そいつが死んだなんてまだ信じられないよ」


 若者はそう言い窓越しに空を見上げた。


「そっか……それは気の毒だったな。でも俺、お前には悪りぃけど日本だけで感染が止まって良かったと思ってる。やりたいことは沢山あるしまだ死にたくねーよ。だけど……本当に終息したんだよな?」

「バカな事言わないでくれよ。もしそうでないならアイツが報われないじゃないか。それに………………ん?    ……あれ?」


 その時、若者は自分の鼻に違和感を覚え、そっと鼻の下に指をあてる。

 そして目の前の恐怖に歪んだ友の顔を経由し、何かで湿った指へと視線を落とした。



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