2019年8月3日土曜日

透明人間当選①

 俺は何の特技も持たず、何も考えず毎日惰性で過ごしている只のサラリーマンである。

 早朝、目覚まし時計が鳴り響いた。

 今日は会社が休みのため、開店前のパチンコ屋に並ぶべくアラームをセットしておいたのだ。

 目も開けず、定位置にある目覚まし時計に手を伸ばしアラームを止める。今日もお決まりの休日が始まると思っていた。

 しかし……。

 目を擦りながら上半身を起こし、ふとベッドの横にある鏡を見ると、そこにあるはずの自分の姿が無かった。


「えっ?」


 驚いて二度見したけどあまり意味がなかった。だって映ってないんだから……。しかも鏡の中だけじゃなく、この空間に俺の姿が存在していなかった。

 突然の出来事に恐怖を覚え、心臓の鼓動が速さを増してくるのを感じた。


 これ夢……だよな。


 俺は確めるために頬を思いっきりつねった。これでもかってくらいつねった。

 頬に痛みは……あった。っていうかめちゃくちゃ痛い。


 そして、痛みを感じたその瞬間――突如としてこの空間に俺の体が姿を現した。


「えっ?」


 自分に何が起きてるのか全く理解が追い付かない。

 再度体を確認してみる。

 手もある、足もある。鏡にも姿は映っている。頬は赤くなり少し腫れていた。


 夢じゃない……のか?


 呆然とし、鏡の中を眺めていると鏡の中の自分と目があった。

 するとその時――頭の中に声が響いた。


『おめでとうございます!    [透明人間] が当選いたしました。有効期限は3日間です。3日経過後のお手続きについては追ってご案内いたします


 ななな、なんだこれ!?


「おいっ!  これ何なんだよぉーー!」


……。

……。

……。


 虚しく部屋の中に声が響いた。

 そしてそれ以降、あの声が聞こえることは無かった。


 いったい……。


 俺は自分に起きたこと、あの声が喋っていたことを目を閉じてもう一度振り返った。


 透明人間に当選……。

 俺は透明になる能力を得たのか?    でもどうやって?

 んー分からん。説明も少なすぎるし……。


「はぁ」


 考えてもこれ以上何もわからないため、諦めて目を開いた。


 すると……また俺の体が消えていた。




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