俺は何の特技も持たず、何も考えず毎日惰性で過ごしている只のサラリーマンである。
 今日は会社が休みのため、開店前のパチンコ屋に並ぶべくアラームをセットしておいたのだ。
 目も開けず、定位置にある目覚まし時計に手を伸ばしアラームを止める。今日もお決まりの休日が始まると思っていた。
 しかし……。
 目を擦りながら上半身を起こし、ふとベッドの横にある鏡を見ると、そこにあるはずの自分の姿が無かった。
「えっ?」
 驚いて二度見したけどあまり意味がなかった。だって映ってないんだから……。しかも鏡の中だけじゃなく、この空間に俺の姿が存在していなかった。
 突然の出来事に恐怖を覚え、心臓の鼓動が速さを増してくるのを感じた。
 これ夢……だよな。
 俺は確めるために頬を思いっきりつねった。これでもかってくらいつねった。
 頬に痛みは……あった。っていうかめちゃくちゃ痛い。
 そして、痛みを感じたその瞬間――突如としてこの空間に俺の体が姿を現した。
「えっ?」
 自分に何が起きてるのか全く理解が追い付かない。
 再度体を確認してみる。
 手もある、足もある。鏡にも姿は映っている。頬は赤くなり少し腫れていた。
 夢じゃない……のか?
 呆然とし、鏡の中を眺めていると鏡の中の自分と目があった。
 するとその時――頭の中に声が響いた。
『おめでとうございます!    [透明人間] が当選いたしました。有効期限は3日間です。3日経過後のお手続きについては追ってご案内いたします』
 ななな、なんだこれ!?
「おいっ!  これ何なんだよぉーー!」
……。
……。
……。
 虚しく部屋の中に声が響いた。
 そしてそれ以降、あの声が聞こえることは無かった。
 いったい……。
 俺は自分に起きたこと、あの声が喋っていたことを目を閉じてもう一度振り返った。
 透明人間に当選……。
 俺は透明になる能力を得たのか?    でもどうやって?
 んー分からん。説明も少なすぎるし……。
「はぁ」
 考えてもこれ以上何もわからないため、諦めて目を開いた。
 すると……また俺の体が消えていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿